無冠のシーズンMVP ④

投手としても打者としても、規定に届かなかった。それでも圧倒的な支持でMVPに選ばれた選手の一年を、投打の成績と優勝への働きから追う。

概要

日本プロ野球のシーズンMVP受賞者から、同じ年の主要成績タイトルを獲得していない選手を一人取り上げる。通算タイトルの有無や日本シリーズMVPとは区別する。

防御率や打率のタイトルには、率の成績だけでなく一定の投球回・打席数が必要となる。一方、MVPは記者投票で選ぶ表彰であり、成績タイトルの獲得を必須条件としていない。投手と打者の両方で貢献したシーズンを、二つの成績表から読む[A1][A2][A6][A7]。

あわせて読む選手・キャリア同時獲得した人が最も少ないタイトルの組み合わせ三冠王は難易度が高い最も有名な組み合わせだが、タイトルの取り合わせを変えると、さらに達成者が少ない組み合わせがある。

詳細

◇第4回の主役

大谷翔平。2016年、北海道日本ハムファイターズで初のパ・リーグMVPとなった。投手として10勝4敗、防御率1.86、174奪三振。打者として打率.322、22本塁打、67打点を記録したが、規定投球回と規定打席のどちらにも届かず、主要成績タイトルは獲得していない[A1][A3][A10]。

ここでいう「無冠」は、MVP受賞年に公式のシーズン成績タイトルを獲得していない、という意味である。打撃6部門と、投手の最優秀防御率・最多勝・勝率第一位・最多奪三振・最多セーブ・最優秀中継ぎを確認した。ベストナインや月間MVPなどの選考賞は含めない。大谷は同年、投手と指名打者の2部門でベストナインを受賞している[A1]。

◇投手と打者の二つのシーズン成績

投手成績は21登板、140投球回。10勝に加えて4完投、174奪三振を残した。打撃では104試合、382打席に立ち、104安打と22本塁打、54四球を記録。防御率1.86と打率.322の両方を、同じ選手が残した一年だった[A3]。

年選手名球団登板勝利敗北セーブホールド完投完封投球回被安打被本塁打与四球与死球奪三振失点自責点防御率
2016大谷翔平日本ハム21104014114089445817433291.86

一軍公式戦の投手成績。勝率は.714、ホールドポイントは1。失点33と自責点29は別の数字[A3]。

年選手名球団試合打席打数得点安打二塁打三塁打本塁打打点四球死球三振盗塁打率出塁率長打率OPS
2016大谷翔平日本ハム104382323651041812267541987.322.416.5881.004

一軍公式戦の打撃成績[A11]。OPSは公式表示の出塁率+長打率から計算した参考値[A3]。

◇率の数字とタイトル資格を分ける

日本ハムの143試合に対し、規定投球回は143回で、大谷は3回不足した。規定打席は143×3.1=443.3を四捨五入した443打席で、61打席不足。防御率1.86は規定到達者のトップである石川歩2.16より低いが、公式の最優秀防御率ランキングの1位は石川である。大谷の打率.322も、規定打席以上の打率順位にそのまま入れることはできない[A3][A4][A6][A7]。

◇投手の主要タイトルランキング

防御率・勝利・奪三振と、最高勝率に関連する公式の勝率順位を載せる。大谷は奪三振で3位に入った。勝利は最多勝の和田毅15に5勝差の10勝だった[A4]。

◇防御率

防御率
順位選手名球団防御率
1石川歩ロッテ2.16
2菊池雄星西武2.58
3千賀滉大ソフトバンク2.61

規定投球回以上。大谷1.86は140回で規定未到達のため、この順位に含めない[A4][A6]。

◇勝利

勝利
順位選手名球団勝利
1和田毅ソフトバンク15
2石川歩ロッテ14
2武田翔太ソフトバンク14

規定投球回の到達にかかわらず比較。大谷は10勝[A3][A4]。

◇奪三振

奪三振
順位選手名球団奪三振
1則本昂大楽天216
2千賀滉大ソフトバンク181
3大谷翔平日本ハム174

規定投球回の到達にかかわらず比較[A4]。

◇最高勝率

勝率
順位選手名球団勝率
1千賀滉大ソフトバンク.800
2和田毅ソフトバンク.750
3石川歩ロッテ.737

NPB公式の規定投球回以上の勝率順位。表彰には別に13勝以上が必要で、12勝の千賀ではなく15勝の和田が勝率第一位投手賞を受賞した。大谷は10勝4敗、勝率.714で表彰条件にも達していない[A1][A8]。

◇打者の主要タイトルランキング

打撃では本塁打・打点・安打に加え、打率と出塁率を比較する。大谷の22本塁打はリーグ8位。規定に届かなくても、本塁打数や打点などの積み上げる成績はランキングの対象となる[A5][A9]。

◇打率

打率
順位選手名球団打率
1角中勝也ロッテ.339
2西川遥輝日本ハム.314
3浅村栄斗西武.309

規定打席以上。大谷.322は規定未到達のため、この順位に含めない[A5][A7]。

◇本塁打

本塁打
順位選手名球団本塁打
1レアード日本ハム39
2メヒア西武35
3ウィーラー楽天27
3松田宣浩ソフトバンク27

3位タイの2人を掲載。大谷は22本で8位[A5][A9]。

◇打点

打点
順位選手名球団打点
1中田翔日本ハム110
2内川聖一ソフトバンク106
3メヒア西武103

大谷は67打点。規定打席の到達にかかわらず比較[A3][A5]。

◇安打

安打
順位選手名球団安打
1角中勝也ロッテ178
2浅村栄斗西武172
3秋山翔吾西武171

大谷は104安打。規定打席の到達にかかわらず比較[A3][A5]。

◇出塁率

出塁率
順位選手名球団出塁率
1柳田悠岐ソフトバンク.446
2角中勝也ロッテ.417
3中村晃ソフトバンク.416

規定打席以上。大谷も表示値は.416だが、規定未到達のためこの順位に含めない[A3][A5][A7]。

投手では先発として関係の深い4部門、打撃では5部門のトップ3を掲載した。打撃6部門の残る盗塁王は糸井嘉男・金子侑司の53で、大谷は7盗塁。投手の最多セーブはサファテ43、最優秀中継ぎは宮西尚生42ホールドポイントで、大谷は0セーブ、1ホールドポイントだった[A1][A3][A4][A5]。

◇最大11.5ゲーム差を逆転した日本ハム

日本ハムは87勝53敗3分、勝率.621で優勝し、2位ソフトバンクに2.5ゲーム差をつけた。最大11.5ゲームの差を逆転してのリーグ制覇だった。チーム打率.266と防御率3.06はいずれもリーグ1位で、レアードが本塁打王、中田が打点王、宮西が最優秀中継ぎ投手となるなど、投打にタイトルホルダーもそろっていた[A1][A12][A13]。

順位チーム名試合勝利敗北引分勝率ゲーム差打率本塁打得点防御率失点
1日本ハム14387533.621―.2661216193.06467
2ソフトバンク14383546.6062.5.2611146373.09479
3ロッテ14372683.51415.0.256805833.66582
4西武14364763.45723.0.2641286193.85618
5楽天14362783.44325.0.2571015444.11654
6オリックス14357833.40730.0.253844994.18635

公式戦最終順位。球団名は略称。ゲーム差は首位との差[A12]。

◇1位票をほぼ独占したMVP投票

大谷は1位票253、2位票1で1268点。有効投票254の約99.6%が、大谷を1位に推した。2位のレアード298点とは970点差で、票数の差とは区別する。本塁打王、打点王、最多勝投手を上回る支持を集めたことが分かる[A1][A2]。

順位選手名球団1位票2位票3位票点数
1大谷翔平日本ハム253101268
2レアード日本ハム08543298
3中田翔日本ハム05040190
4和田毅ソフトバンク02428100
5西川遥輝日本ハム0111144

得票上位5人。1位5点・2位3点・3位1点。投票総数255、有効投票数254。1位票割合=253÷254×100、2位との点差=1268−298[A2]。

選出理由を投打の貢献から考える

公式の投票表は、記者一人ひとりの理由を示していない。以下は成績と当時の発言に基づく考察である。大谷の価値を、最多勝との差や本塁打王との差だけで測ると、もう一方の役割が抜け落ちる。140回を防御率1.86で投げながら、382打席で22本塁打と54四球を残した二つの働きが、総合評価の中心だったと考えられる[A2][A3][A10]。

優勝への働きも考察の根拠となる。球団は受賞発表で、規定に届かず個人タイトルがなくても、投打両面でリーグ優勝と日本一に貢献したと紹介した。大谷本人も、日本一になったことへの評価だと受け止め、監督や選手、裏方、ファンへの感謝を述べている。これは本人と球団の見方であり、全投票者の理由を代表するものではない[A10]。

同年の投手と指名打者のベストナイン同時受賞も、投打それぞれで評価された事実を示す。球団によると2部門の同時受賞は史上初だった。成績タイトルの「無冠」と、選考賞を含めた表彰の有無を分けることが、このMVPを読むうえで欠かせない[A1][A14]。

◇一番投手で先頭打者本塁打を放った日

7月3日のソフトバンク戦、ヤフオクドームで大谷は一番・投手として先発した。初回、中田賢一の初球を本塁打にし、投手としても8回5安打、10奪三振、無失点。日本ハムは2対0で勝った。NPBの記録回顧は、投手による初回先頭打者本塁打をプロ野球史上初と記している。投打の成績を二つの表に分けて見るだけでは伝わりにくい、同じ試合での働きが現れた場面だった[A15][A16]。

◇優勝を決めた1安打完封

9月28日の西武戦では9回を1安打、1四球、15奪三振、無失点に抑え、10勝目を挙げた。レアードの4回のソロ本塁打による1点を守り、日本ハムは1対0で勝ってリーグ優勝を決めた。大谷の好投と本塁打王の一打が組み合わさった試合でもある[A13][A17]。

おすすめ投手九回以上の完封勝利で最も少ない奪三振数は?完封勝利には、三振を積み重ねる快投を思い浮かべる。では、九回以上を一人で投げ切った完封で、奪三振はどこまで少なくできるのだろうか。

◇圧倒的な受賞でも残った本人の課題

受賞翌日のFull-Countの記事で、大谷は成績に満足していないとし、来季の課題に投球回を挙げていた。規定に届かなかったことは本人にも改善点だった一方、投票ではほぼすべての1位票が集まった。規定到達の有無と、その年のMVP評価は異なる問いだったと読むことができる[A2][B1]。

確認日は2026年10月12日。対象は2016年パ・リーグ一軍公式戦。成績表にはポストシーズンを含めない。大谷は同年7月に22歳となり、プロ4年目。率のランキングは各部門の公式条件を守り、規定未到達の数値を仮に順位へ挿入していない。投打の成績を単純加算して独自の貢献点にすることもしていない[A3]。

何がすごいのか

  • 投手として10勝・174奪三振、打者として22本塁打・67打点を同じシーズンに記録した[A3]。
  • 規定投球回と規定打席に達せず、成績タイトルなしでMVPとなった[A1][A6][A7]。
  • 有効投票254のうち、253の1位票を集めた[A2]。
  • 選手・キャリア

    無冠のシーズンMVP ⑤

    主要打撃タイトルに手が届かなくても、攻撃の中心であり続けた。遊撃手と主将の役割を担いながら、優勝へ導いた一年を成績と当時の言葉から読む。

  • 選手・キャリア

    無冠のシーズンMVP ②

    本塁打も打点も、タイトル争いの上位にいながら頂点には届かなかった。それでもMVPに選ばれた打者の一年を、各部門の順位と優勝への働きから追う。

  • 選手・キャリア

    無冠のシーズンMVP ⑥

    長打の数だけでは伝わらない、捕手の働きがある。打線の中軸と投手陣の支えを兼ね、全試合に出場して優勝に貢献した一年をたどる。

  • 選手・キャリア

    無冠のシーズンMVP ⑧

    強力打線の中軸を担いながら、捕手として最後までグラウンドに立ち続けた。個人タイトルに届かなくても、攻守の働きでMVPに選ばれた一年を追う。

出典