無冠のシーズンMVP ⑥

長打の数だけでは伝わらない、捕手の働きがある。打線の中軸と投手陣の支えを兼ね、全試合に出場して優勝に貢献した一年をたどる。

概要

日本プロ野球のシーズンMVP受賞者から、受賞年の主要打撃タイトルを獲得していない選手を取り上げる。通算タイトル歴や日本シリーズの表彰とは区別する。

打撃タイトルは、個々の部門の首位に贈られる。一方、MVPには打撃に加えて守備やチームへの貢献も評価される余地がある。捕手が打線の中軸も担った一年を、打撃成績とチームの投打、球団や専門誌の回顧から読む。

詳細

◇第6回の主役

古田敦也。1997年、ヤクルトスワローズで4年ぶり2度目のセ・リーグMVPを受賞した。全137試合に出場し、打率.322、9本塁打、86打点、164安打。主要打撃タイトルは獲得しなかったが、正捕手として投手陣を支え、5月下旬からは四番も務めた[A1][A2][A3]。

ここでいう「無冠」は、MVP受賞年の打率・安打・本塁打・打点・出塁率・盗塁の主要打撃6部門でタイトルを獲得していない、という意味である。当時の勝利打点賞も鈴木尚典の受賞で、古田ではなかった。古田は同年、ベストナイン、ゴールデン・グラブ賞、正力松太郎賞、日本シリーズMVPなどを受賞している。選考賞や通算のタイトル歴まで含めて「無冠」とするものではない[A3][A4][B7]。

現役最終年に最も多くのタイトルを獲得した選手

◇全137試合に出場した打撃成績

古田は598打席、509打数で164安打。32二塁打と69四球を記録し、出塁率は.413だった。本塁打は9本でも、打率と出塁率を高く保ち、86打点を挙げている。捕手の役割に加えて、打線でも中軸を任された一年だった[A2][A3]。

選手名年球団試合打席打数得点安打
古田敦也1997ヤクルト13759850974164

1997年の一軍公式戦。チームも137試合で、古田は全試合に出場[A1][A2]。

二塁打三塁打本塁打塁打打点四球死球
3229227866913

上の表と同じシーズンの打撃成績[A2]。

三振盗塁盗塁刺犠打犠飛併殺打
64943411

盗塁刺4は古田が走者として盗塁に失敗した数。捕手として相手の盗塁を阻止した数ではない[A2]。

打率出塁率長打率OPS
.322.413.446.859

OPSは公式表示の出塁率.413+長打率.446から計算した参考値。シーズン全体の成績[A2]。

◇主要打撃タイトルのトップ3

古田は打率、安打、出塁率でリーグ3位。最多安打のロペス170本とは6本差だった。打点は駒田徳広と並ぶ6位タイで、本塁打や盗塁のタイトル争いとは異なる形で打線に貢献している。率の順位は規定打席以上の選手で比較する[A1][B1][B2][B4]。

◇打率

打率
順位選手名球団打率
1鈴木尚典横浜.335
2ローズ横浜.328
3古田敦也ヤクルト.322

古田は3位。首位打者は鈴木尚典[A1]。

◇本塁打

本塁打
順位選手名球団本塁打
1ホージーヤクルト38
2松井秀喜巨人37
3金本知憲広島33

古田は9本。同僚のホージーが本塁打王[A1][A2][B3]。

◇打点

打点
順位選手名球団打点
1ロペス広島112
2松井秀喜巨人103
3ホージーヤクルト100

古田は86打点で駒田徳広と6位タイ[A2][B4]。

◇安打

安打
順位選手名球団安打
1ロペス広島170
2石井琢朗横浜166
3古田敦也ヤクルト164

古田は3位。首位との差は170−164=6安打[A1][B2]。

◇出塁率

出塁率
順位選手名球団出塁率
1ローズ横浜.444
2松井秀喜巨人.419
3古田敦也ヤクルト.413

規定打席以上。古田は3位[B1]。

◇盗塁

盗塁
順位選手名球団盗塁
1緒方孝市広島49
2飯田哲也ヤクルト26
2野村謙二郎広島26

2位タイが2人のため、この3人を掲載。古田は9盗塁[A2][B5]。

◇打率と防御率でリーグトップの優勝チーム

ヤクルトは83勝52敗2分、勝率.615。2位横浜に11ゲーム差をつけて優勝した。チーム打率.276はリーグ最高で、得点672、盗塁123もリーグ最多。防御率3.26はリーグ最少だった。打つ力、走る力、失点を抑える力がそろっていた[A1]。

◇順位表

順位チーム名試合勝利敗北引分勝率ゲーム差
1ヤクルト13783522.615―
2横浜13572630.53311.0
3広島13566690.48917.0
4巨人13563720.46720.0
5阪神13662731.45921.0
6中日13659761.43724.0

1997年セ・リーグ公式戦の最終順位。球団名は当時の名称の略称。ゲーム差は首位との差[A1]。

◇チーム成績

チーム名打率本塁打得点盗塁防御率失点
ヤクルト.2761386721233.26503
横浜.273105572873.70548
広島.2591646511174.44653
巨人.251150550373.69536
阪神.244103504383.70575
中日.243115510554.33644

上の順位表と同じ公式戦のチーム成績。防御率は小数第2位までの表示に統一。阪神と横浜はどちらも3.70になるため、この表の表示値だけで防御率順位をつけない[A1]。

◇四番を打つ正捕手という働き

古田をこのシリーズで取り上げる理由は、打撃成績と捕手の仕事を併せて読む必要があるからだ。球団の回顧は、古田が5月下旬から四番に座り、正捕手として投手陣をチーム防御率リーグ1位に導いたと評価している。打撃の主要タイトルの首位だけでは、その役割を十分に説明できない[A3]。

ただし、チーム防御率は投手、捕手、野手の守備などを合わせた結果であり、古田一人の成果にはできない。田畑一也は15勝、防御率2.96、吉井理人は13勝、防御率2.99を記録し、両投手自身の働きも大きかった。投手の成果を踏まえたうえで、捕手としてその力を引き出した点が評価されたと考えるのが自然だ[A1][B6]。

選手名球団登板勝利敗北防御率
田畑一也ヤクルト261552.96
吉井理人ヤクルト281362.99

投手陣を読むための参考として先発2人を掲載。成績は投手自身のもので、古田個人の守備成績には置き換えない[A1]。

選出理由を資料から考える

以下は成績と球団・専門誌の回顧に基づく推察であり、1997年の投票者全員の理由を示したものではない。打率.322、164安打、出塁率.413でいずれもリーグ3位という打撃の質と、全137試合への出場が、チームへの継続的な貢献を裏づけている。四番と正捕手を兼ねる選手が一年を通して働いたことに、総合的な価値が認められたと考えられる[A2][A3][B1][B2]。

2019年の週刊ベースボールの回顧企画も、古田を同誌選定の1997年MVPに挙げている。同誌は全試合でマスクをかぶったことに触れ、田畑や吉井らの力を試合の中で引き出したと評価した。これは1997年の公式投票理由ではなく、後年の編集部による評価だが、古田の働きを打撃以外から読む手掛かりになる[B6]。

本塁打王のホージーが同じチームにいながら、公式MVPは古田だった。タイトルの数よりも、攻守で優勝チームを支えた一年全体が評価された受賞と読むことができる。ベストナインやゴールデン・グラブ賞も受賞しており、「主要打撃タイトルなし」と「評価されていない」は別の話である[A1][A4]。

こちらも打撃主要打撃タイトルの獲得者が最少の位置は?1試合の中で守備と打撃の2役をこなす打者にとって、守備の負担というのは少なからず打席にも影響を与えるといわれている。では守備負担の影響が大きいポジションとは。

◇日本シリーズでも勝負を決める一打

西武との日本シリーズは、1勝1敗で神宮へ舞台を移した。10月21日の第3戦、3対3で迎えた八回、古田は渡辺久信から中越えのソロ本塁打を放ち、ヤクルトは5対3で勝利した。翌22日の第4戦でも、1点を追う三回に右越えの2点二塁打を放ち、逆転。ヤクルトは7対1で勝った[A5][A6][A7]。

日付試合選手名打数安打本塁打打点死球
10月21日第3戦古田敦也31111
10月22日第4戦古田敦也32021

1997年日本シリーズの各試合での打撃成績。シーズン成績には加えない[A6][A7]。

ヤクルトは10月23日の第5戦を3対0で制し、4勝1敗で日本一になった。古田は日本シリーズMVPも受賞。リーグMVPとは対象が異なる表彰だが、短期決戦でも攻守の中心を担ったシーズンの締めくくりだった[A3][A5]。

◇通算記録でも節目を迎えた年

同年5月7日の巨人戦では通算100本塁打、10月3日の広島戦では通算1000安打に到達している。年間9本塁打という数字と、長く積み重ねた通算の実績は分けて読みたい。主要打撃タイトルのない年に、全試合出場と二つのMVP、そして通算記録の節目が重なった[A3][A4]。

確認日は2026年10月12日。対象は1997年セ・リーグ一軍公式戦。日本シリーズはエピソードとして分け、シーズン成績に含めない。主要打撃6部門の上位はNPBの年度別成績と公開ランキング資料で照合。打率・出塁率は規定打席以上。球団回顧の評価や後年の記事と、当時のMVP受賞の事実を区別した。★は記事で注目する選手・チームの指定。

何がすごいのか

  • 全137試合に出場し、打率.322、164安打、出塁率.413を記録した[A2]。
  • 打率・安打・出塁率は、いずれもリーグ3位だった[A1][B1][B2]。
  • 四番打者と正捕手の役割を担い、打率・得点・防御率でリーグトップのチームを支えた[A1][A3]。
  • 選手・キャリア

    無冠のシーズンMVP ⑧

    強力打線の中軸を担いながら、捕手として最後までグラウンドに立ち続けた。個人タイトルに届かなくても、攻守の働きでMVPに選ばれた一年を追う。

  • 選手・キャリア

    無冠のシーズンMVP ⑤

    主要打撃タイトルに手が届かなくても、攻撃の中心であり続けた。遊撃手と主将の役割を担いながら、優勝へ導いた一年を成績と当時の言葉から読む。

  • 選手・キャリア

    無冠のシーズンMVP ②

    本塁打も打点も、タイトル争いの上位にいながら頂点には届かなかった。それでもMVPに選ばれた打者の一年を、各部門の順位と優勝への働きから追う。

  • 選手・キャリア

    無冠のシーズンMVP ③

    新しいリーグでも打線の中心を担い、成績タイトルなしでMVPに選ばれた打者がいる。移籍初年度の成績と優勝への働きから、その選出を考える。

出典