無冠のシーズンMVP ⑤

主要打撃タイトルに手が届かなくても、攻撃の中心であり続けた。遊撃手と主将の役割を担いながら、優勝へ導いた一年を成績と当時の言葉から読む。

概要

日本プロ野球のシーズンMVP受賞者から、受賞年に主要打撃タイトルを獲得していない選手を取り上げる。通算のタイトル歴とは区別する。

打撃タイトルは、それぞれの部門で最も優れた成績を残した選手に贈られる。一方、MVPは記者投票による表彰で、どれか一部門の首位であることを条件としない。複数の打撃成績とチームでの役割を合わせて、その年の評価を考える[A1][A2]。

詳細

◇第5回の主役

坂本勇人。2019年、読売ジャイアンツの遊撃手として、初のセ・リーグMVPを受賞した。全143試合に出場し、打率.312、40本塁打、94打点、173安打。主要打撃タイトルは獲得しなかったが、主に二番打者を務め、主将として5年ぶりのリーグ優勝を果たしたチームを支えた[A1][A3][A7]。

ここでいう「無冠」は、MVP受賞年に打率・安打・本塁打・打点・出塁率・盗塁の主要打撃6部門のタイトルを獲得していない、という意味である。坂本は同年、遊撃手のベストナインとゴールデン・グラブ賞を受賞している。選考賞も通算タイトル歴もないという意味ではない[A1][A8]。

主要打撃タイトルの獲得者が最少の位置は?

◇全試合出場で残したシーズン成績

143試合、639打席。打率3割を保ちながら、40本塁打と77四球を記録した。出塁率は.396、長打率は.575。40本塁打と94打点は当時の自己最多であり、長打と出塁の両方を備えたシーズンだった[A3][A7]。

年選手名球団試合打席打数得点安打二塁打三塁打本塁打塁打
2019坂本勇人巨人14363955510317326040319

2019年の一軍公式戦。各成績は独立した列で掲載[A3]。

選手名打点四球死球三振盗塁盗塁刺犠打犠飛併殺打打率出塁率長打率OPS
坂本勇人9477212353329.312.396.575.971

上の表と同じシーズン。OPSは公式表示の出塁率.396+長打率.575から計算した参考値[A3]。

主要打撃タイトルのトップ3

本塁打はソトに3本及ばず、安打は大島洋平にわずか1本届かなかった。坂本は本塁打と安打で2位、打率で5位、打点で4位タイ、出塁率で4位だった。打率・出塁率は規定打席以上の公式順位で比較する[A4][A5][A6][A9]。

◇打率

打率
順位選手名球団打率
1鈴木誠也広島.335
2ビシエド中日.315
3糸井嘉男阪神.314

坂本は.312で5位。大島も3桁表示では.312だが、実数では大島174÷558、坂本173÷555となり、大島が4位[A4][A6]。

◇本塁打

本塁打
順位選手名球団本塁打
1ソトDeNA43
2坂本勇人巨人40
3村上宗隆ヤクルト36

坂本は2位。首位との差は43−40=3本[A4]。

◇打点

打点
順位選手名球団打点
1ソトDeNA108
2山田哲人ヤクルト98
3村上宗隆ヤクルト96

坂本は94打点で岡本和真と4位タイ[A9]。

◇安打

安打
順位選手名球団安打
1大島洋平中日174
2坂本勇人巨人173
3ビシエド中日168

坂本は2位。首位との差は174−173=1安打[A4]。

◇出塁率

出塁率
順位選手名球団出塁率
1鈴木誠也広島.453
2糸井嘉男阪神.403
3山田哲人ヤクルト.401

坂本は.396で4位[A5]。

◇盗塁

盗塁
順位選手名球団盗塁
1近本光司阪神36
2山田哲人ヤクルト33
3大島洋平中日30

坂本は5盗塁。主要打撃6部門の確認として掲載[A3][A4]。

タイトルのない部門ではリーグ1位

「無冠」という言葉だけでは、この年の打撃の強さを捉えきれない。主要打撃6部門とは別に、坂本の長打率.575と319塁打はリーグ1位だった。40本塁打を含む長打の量が、タイトル一覧に現れない首位の成績を生んでいた[A1][A4]。

◇長打率

長打率
順位選手名球団長打率
1坂本勇人巨人.575
2鈴木誠也広島.565
3山田哲人ヤクルト.560

参考の成績順位。2019年の主要打撃タイトルに長打率と塁打の表彰はない[A1][A4]。

◇塁打

塁打
順位選手名球団塁打
1坂本勇人巨人319
2山田哲人ヤクルト291
3ソトDeNA286

参考の成績順位。2019年の主要打撃タイトルに長打率と塁打の表彰はない[A1][A4]。

5年ぶりのリーグ優勝とチームの投打

巨人は77勝64敗2分、勝率.546で優勝し、2位DeNAに5.5ゲーム差をつけた。チーム得点663と本塁打183はリーグ最多。チーム打率は.257で2位、防御率は3.77で4位だった。打線の得点力が際立つチームの中で、坂本は本塁打・安打・得点・塁打のいずれも球団最多だった[A6][A10]。

順位チーム名試合勝利敗北引分勝率ゲーム差打率本塁打得点防御率失点
1巨人14377642.546―.2571836633.77573
2DeNA14371693.5075.5.2461635963.93611
3阪神14369686.5046.0.251945383.46566
4広島14370703.5006.5.2541405913.68601
5中日14368732.4829.0.263905633.72544
6ヤクルト14359822.41818.0.2441676564.78739

2019年セ・リーグ公式戦最終成績。ゲーム差は首位との差。球団名は略称[A6]。

投手三冠の山口俊を上回った支持

坂本はMVP投票で261の1位票を集め、1403点を獲得した。有効投票299の約87.3%が坂本を1位に推した計算になる。2位は、最多勝利・勝率第一位・最多奪三振の三つの投手タイトルを獲得した同僚の山口俊。坂本と山口の差は738点だった[A1][A2]。

順位選手名球団1位票2位票3位票点数
1坂本勇人巨人2613221403
2山口俊巨人2416259665
3丸佳浩巨人754109306
4鈴木誠也広島3142077
5ソトDeNA173561

得票上位5人。1位5点・2位3点・3位1点。投票総数300、有効投票数299。1位票割合=261÷299×100、点差=1403−665。点数と票数は区別する[A2]。

選出理由を成績と当時の報道から考える

投票結果は、記者それぞれの選出理由までは示していない。以下は公式成績と当時の記事からの推察である。まず、打率・本塁打・安打・出塁率のいずれでも上位に入り、長打率では首位だったことが、打者としての総合評価を支えたと考えられる。最多安打との差は1本、本塁打王との差は3本であり、「無冠」は打撃成績が低かったことを意味しない[A2][A3][A4][A5]。

次に、二番打者でありながら40本塁打を放った働きである。NPBの受賞報告は、坂本を主に「攻撃的二番」として打線をけん引した選手と紹介している。出塁率.396で打線をつなぐと同時に、自ら長打で得点を生む役割が評価されたと読むことができる。ただし、打順だけをMVPの決め手と断定することはできない[A3][A7]。

さらに、全143試合に出場した継続性と、遊撃手・主将として優勝チームを支えた役割である。NPBは主将としてチームの先頭に立ち続けたことを記し、同年には遊撃手のベストナインとゴールデン・グラブ賞も受賞した。これらは投票による評価の事実であり、守備の貢献を数値で断定する根拠とは分けたい。打撃の強さに、継続性とチーム内の役割が重なったシーズンだったと考えられる[A1][A3][A7][A8]。

おすすめシーズン・順位最も低いチーム順位から選ばれたシーズンMVPMVPは優勝チームから選ばれるというルールはない。チーム事情に関係なく、そのシーズンで一番の成績を残した者にふさわしい。

◇遊撃手としてセ・リーグ初のMVP

坂本は、セ・リーグの遊撃手として初めてMVPに選ばれた。NPBの受賞報告では、本人が長い歴史の中での受賞を誇りに思うと語っている。「初」はセ・リーグの遊撃手についてのもので、NPB全体で初という意味ではない[A7]。

◇阿部の記念試合で届いた40号

9月27日のDeNA戦、東京ドームで坂本は四回に中川虎大から40号ソロを放った。同じ回に阿部慎之助も7号ソロを打ち、巨人は6対4で勝利。坂本は東京ドームMVP賞の受賞コメントで、阿部の記念試合で40号を打てたことが、その年で最も印象に残っていると振り返った[A11][A12]。

東京ドームでの打撃成績も際立っていた。球場独自のMVP賞の発表によると、64試合すべてに出場し、247打数84安打、打率.340、22本塁打、49打点。リーグのMVPとは別の表彰であり、本拠地での活躍に光を当てた賞だった[A12]。

選手名試合打数安打打率本塁打打点
坂本勇人6424784.3402249

2019年の東京ドームでの一軍公式戦。シーズン全体の成績とは分けて掲載[A12]。

◇本人の想像を超えた長打力

11月26日の日刊スポーツは、坂本が40本塁打を自分でも想像していなかったと語ったことを伝えている。本人は、向上を求め続けることで不可能と思ったことも可能になるとし、若い選手にもその姿勢を持ってほしいと話した。記録の大きさを自身の驚きで終わらせず、後輩への言葉にしたところに、主将としての一面が表れていると読める[B1]。

確認日は2026年10月12日。対象は2019年セ・リーグ一軍公式戦で、ポストシーズンや代表戦は成績表に含めない。「無冠」は受賞年の主要打撃6部門に限定する。選出理由は成績・受賞報告・当時の報道からの推察で、投票者全員の理由を確定したものではない。★は記事で注目する選手・チームの指定。

何がすごいのか

  • 40本塁打と173安打はいずれもリーグ2位。長打率.575と319塁打はリーグ1位だった[A4]。
  • 全143試合に出場し、主に攻撃的な二番打者として優勝チームを支えた[A3][A7]。
  • MVP投票は261の1位票、1403点。三つの投手タイトルを獲得した山口俊を上回った[A1][A2]。

出典